翻訳の品質を高めたり、翻訳のブレをなくしたりするために必要な資料として、「スタイルガイド」「翻訳メモリ」「翻訳用語集」「指示書」などさまざまなものが挙げられます。
今回は「翻訳用語集」とは何か、作成する際のポイントや注意点について説明します。
今後、翻訳用語集の作成を考えている人は参考にしてください。
翻訳用語集とは?
翻訳用語集とは翻訳の対象となる分野や業界、クライアント特有の単語や語句の意味と、使用方法についてまとめたものです。
形式としては原文と訳文を対訳表記した表に必要な情報を追加したものを使うことが主です。
複数人の翻訳者がいる場合やボリュームの大きい文書の場合、さらには専門的な分野の翻訳に関わる際に重要な資料となります。
翻訳メモリとの違い
翻訳の品質を維持するための必要資料として、翻訳用語集のほかに翻訳メモリと呼ばれるものもあります。
翻訳用語集と翻訳メモリの違いとしては大まかにいうと下記の通りです。
- 翻訳用語集:任意の用語の対訳を集めたもの
- 翻訳メモリ:過去の翻訳データをデータベース化したもの
同じ単語が何度も利用される場合や翻訳会社側では特定がしづらいような固有名詞が利用される場合には翻訳用語集が活躍します。
また、原稿中に何度も同じ文章が出てくる場合は、翻訳メモリを参照することで翻訳を統一することも。
翻訳用語集を使用するメリット
翻訳用語集を使用することで得られるメリットとして以下の3点が挙げられます。
- 翻訳の質が保てる
- 翻訳工数削減
- コスト削減
翻訳の質が保てる
翻訳用語集があれば、複数の意味を持つ単語や固有名詞の誤訳を防ぐことができるため、高い翻訳品質を維持できます。
翻訳の品質が悪ければ、その会社への信頼の失墜にも繋がりかねません。
会社全体のイメージを維持するためにも正しく、品質の高い翻訳が必要だといえます。
翻訳工数削減
専門用語や固有名詞の定訳が反映されるため、チェックや修正に必要な工数が削減されます。
もし翻訳用語集がなければ、翻訳会社側でその専門分野に関する背景資料を読み解き、翻訳が間違いないかどうかを1から調べ上げる必要が出てくるため、膨大な時間と手間がかかります。
事前に翻訳用語集が用意されていれば翻訳内容への理解が早く進み、効率よく作業を進められるでしょう。
コスト削減
上記翻訳工数の削減にある通り、専門用語や固有名詞の定訳が反映され、その分翻訳が必要となる文章量が減ることで、コストの削減に繋がる場合もあります。
一度きちんとした用語集を作っておくと、後から訂正・追加の翻訳が必要となった場合にも、クライアントと翻訳者の間でのやり取りがスムーズになるというメリットも。
翻訳用語集を作成するときのポイント
翻訳用語集を作成するときのポイントは以下の4つです。
- 目的・分野を決定
- 標準表記の規則を登録
- 動詞は避ける
- 用語の使用場面や文脈を明確に定義
それぞれ詳しく見てみましょう。
目的・分野を決定
まずは記載する用語を選ぶことが重要なポイントです。
文書の使用目的や分野によって表記が変わるため、あらかじめ目的と分野は指定しておくことが重要だといえます。
原則として用語集の中にある単語は記載の通りに訳出するというルールがあるため、Excelなどを利用して同一内容の訳が重複していないか確認しておきましょう。
標準表記の規則を登録
専門分野や業界によっては業界団体の対訳集が販売されていることもあるため、購入して、必要に応じて利用することも可能です。
標準表記の規則については、基本的に「スタイルガイド」の中で定められています。
用語集の用語の表記とスタイルガイドでのルールに矛盾が生じている場合には表記の統一をすることができないという問題が発生します。
用語集かスタイルガイドのどちらかを訂正する必要が生じるため、あらかじめ矛盾がないように慎重に作成しておきましょう。
動詞は避ける
動詞は翻訳用語集に登録しないことをおすすめします。
理由は、原文が動詞であったとしても、訳文も必ず動詞になるとは限らないためです。
また、訳語を動詞に限定する方法もありますが、その場合には訳文の語のつながりに違和感が生じ、翻訳の品質を下げてしまう可能性もあります。
もし、どうしても登録しておく必要がある場合には用語の使用場面を明確にかつ慎重に定義しておきましょう。
用語の使用場面や文脈を明確に定義
基本的には1つの単語の対訳は1つであるべきですが、単一の原文を複数の訳文に使い分けるケースもあります。
例えば金融業界で”default”という単語を和訳すると、使用場面や文脈によっては「規定値」「初期設定」「デフォルト(債務不履行)」などの訳となるでしょう。
このように1つの原文から複数の訳文が発生する場合には、使用場面や文脈をあらかじめ明確に定義しておく必要があります。
補足説明として、「メモ」「備考」などの欄に使用場面や文脈を具体的に記述しておきましょう。
翻訳時の用語表記において、クライアントや翻訳会社の指示がない場合「誰が見ても明らか」ということはありえません。
複数人での翻訳や、追加の翻訳、翻訳の更新が発生した場合、用語表記の指示が明確になっていなければ表記のブレは発生しやすくなります。
リスクを最小限にとどめ、翻訳の訂正などにかかる費用を抑えるためにも、使用場面や文脈は明確に定義しておきましょう。
翻訳用語集を運用する際の注意点
翻訳用語集は翻訳をおこなう際の基準となる資料のため、常に最新の状態に更新する必要があります。
同じ理由で、翻訳メモリに関しても常に最新の状態での管理が必要です。
翻訳するコンテンツの作成前の段階から、作成後の管理までを想定し、一貫した管理体制を整えましょう。
もし会社内での管理が難しいという場合には、翻訳用語集や翻訳メモリの管理まで全て任せられる翻訳会社に任せておくという手段もあるため、検討してみてください。
まとめ
ここまで翻訳用語集のメリットや作成にあたってのポイントや注意点を説明しました。
文書の翻訳において翻訳用語集は翻訳品質の維持や、翻訳工数の削減、それに加えてコストの削減もできるため、作成するメリットが大きい資料です。
どのような分野の翻訳であっても、将来的に用語集は必要不可欠な資料として作成しておくとよいでしょう。
ただし、運用をする場合には常に最新の状態に更新されていなければ意味を成しません。
自社での管理が難しい場合には用語集の管理までできる翻訳会社への依頼をおすすめします。
翻訳監修
セス ジャレット:Seth Jarrett
カナダ出身。翻訳会社のアイ・ディー・エー株式会社に13年以上在籍。翻訳者のクオリティーチェックから英語のリライトまで幅広く対応。自らパンやスイーツをつくる料理人でもある。